電池規則がEU官報に掲載されました
2023年7月28日のEU官報にて電池規則 (EU) 2023/1542が掲載されました。発効日は2023年8月17日です。
2020年12月20日に公表された電池規則案では以下の目的を掲げています。
1) 公平な競争条件を確保することでEU市場の機能を強化すること
2) 循環型経済を推進すること
3) 電池のライフサイクルの全段階を通じて環境及び社会的影響を削減すること
ウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長率いる欧州委員会が掲げた優先課題のひとつであるグリーンディールを具現化したモデルと言えます。
案が公表されてから約2.5年の期間を経て公開された電池規則 (EU) 2023/1542は、前述した3つの目的をクリアするため、電池のライフサイクル全体を規制しています。
現行の電池指令 2006/66/ECと新しい電池規則 (EU) 2023/1542の違いを下表に示します(赤字が新規追加)。
法令 | 電池指令 2006/66/EC | 電池規則 (EU) 2023/1542 |
構成 | 前文30文節、条項30、附属書4 | 前文143文節、条項96、附属書14 |
主な義務 | 含有制限(第4条) 廃電池取り外し可能な設計(第11条) 回収・処理費用負担(第16条) 製造者登録(第17条) リサイクルスキームへの参加(第19条) エンドユーザー向け情報提供(第20条) ラベリング(第21条) | 含有制限(第6条+附属書I) カーボンフットプリント(第7条+附属書II) リサイクル材料の最低使用量(第8条) 廃電池取り外し可能な設計(第11条) ラベリング(第13条+附属書VI) CEマーキング(第17条~第20条+附属書VIII~附属書IX) 経済事業者(Economic operators)の義務(第38条~第46条) デューデリジェンス(第47条~第53条) 製造者登録(第55条) 拡大生産者責任(第56条~第58条)(回収・処理費用負担を含む) リサイクルスキームへの参加(第59条~第62条及び第64条~第67条) 希少金属の把握・リサイクル率(第71条+附属書XII) エンドユーザー向け情報提供(第74条) バッテリーパスポート(第77条~第78条+附属書XIII) |
電池指令 2006/66/EC は、2025年8月18日に廃止となり、電池規則 (EU) 2023/1542に置き換わります(第95条)。
ただし、廃電池取り外し可能な設計(第11条)は 2027年2月18日から、適合性評価手順(第17条)及び経済事業者(Economic operators)の義務(第38条~第46条)は2024年8月18日から適用されます。
電池メーカーの皆さまは、これまでの義務に加え、CEマーキングや拡大生産者責任、カーボンフットプリント、デューデリジェンス、バッテリーパスポートなど様々な要求事項に対応する必要があります。
また、電池を供給源とする電気電子製品メーカーの皆さまは、前述したような電池を採用するほか、組み込まれるポータブル電池をエンドユーザーが容易に取り外し、交換ができるように2027年2月18日までに対応する必要があります。
電池規則 (EU) 2023/1542は、一般的な規制の枠組みを確立したものですので、今後は特定の技術的側面を定めた委任法や実施法が採用されて完全運用となる見込みです。
~参考情報~
適用範囲(第1条及び第3条)
形状、体積、重量、設計、材料組成、化学組成、用途、目的にかかわらず、以下すべての種類の電池に適用される。
製品に組み込まれるか追加される電池、又はそのように特別に設計された電池にも適用される。
ポータブル電池 | 密閉され、重量が5kg以下であり、産業用として特別に設計されていない電池であって、 SLI電池、LMT電池、EV電池のいずれでもないもの |
始動・照明・点火用電池 (SLI電池) | 始動・照明・点火用の電力を供給するために特別に設計され、 車両、その他の輸送手段又は機械の補助・バックアップ目的にも使用できる電池 |
軽量輸送手段用電池 (LMT電池) | 密閉され、重量が25kg以下であり、電動モーターのみ、又は電動モーターと人力の組み合わせにより駆動可能な 車輪付き車両(二輪車、三輪車、四輪車の認定と市場監視に関する規則 (EU) 168/2013におけるカテゴリーLの 型式認定車両を含む)の牽引用の電力を供給するために特別に設計された電池であって、EV電池ではないもの |
電気自動車用電池 (EV電池) | 二輪車、三輪車、四輪車の認定と市場監視に関する規則 (EU) 168/2013に規定されるカテゴリーLのハイブリッド車 又は電気自動車に牽引用の電力を供給するために特別に設計され、重量が25kgを超える電池 又は、自動車とトレーラーの認定と市場監視に関する規則 (EU) 2018/858に規定されるカテゴリーM、N、Oの ハイブリッド車又は電気自動車に牽引用の電力を供給するために特別に設計された電池 |
産業用電池 | 産業用に特別に設計され、再利用や再利用のための準備を経て産業用に使用されることが意図され、 重量が5kgを超える電池であって、SLI電池、LMT電池、EV電池のいずれでもないもの |
電池の持続可能性、安全性、ラベル及び情報要件(第5条)
第6条~第10条及び第12条に規定される持続可能性及び安全性に関する要求事項と第13条及び第14条に規定される表示及び情報要件を満たす電池しか上市・使用することができない。
含有制限(第6条+附属書I)
REACH規則 (EC) No 1907/2006 附属書XVII(制限)及びELV指令 2000/53/EC 第4条第2項(a) に規定される制限に加え、下記の物質(附属書I)を含んではならない。
水銀 | すべての電池:0.0005%以下 |
カドミウム | ポータブル電池:0.002%以下 |
鉛(新規追加) | ポータブル電池:0.01%以下(2024年8月18日から) ポータブル亜鉛空気ボタン電池:0.01%以下(2028年8月18日から) |
産業用電池、EV電池、LMT電池、SLI電池のリサイクル材料の最低使用量(第8条)
容量が2kWhを超える産業用電池は、以下の割合以上であることを証明しなければならない。
- コバルト:2031年8月18日から16% → 2036年8月18日から26%
- 鉛:2031年8月18日から85% → 2036年8月18日から85%
- リチウム:2031年8月18日から6% → 2036年8月18日から12%
- ニッケル:2031年8月18日から6% → 2036年8月18日から15%
ラベリング(第13条)
電池に関する一般情報(附属書VI パートA)を含むラベルを貼らなければならない(2026年8月18日から)。
以下の値を超える場合は、分別回収シンボル(附属書VI パートB)の下に化学記号を表示しなければならない。
水銀(削除) | ー |
カドミウム | すべての電池:0.002%以上 |
鉛 | すべての電池:0.004%以上 |
すべての電池で以下の情報にアクセスできるQRコード(附属書VI パートC)を表示しなければならない(2027年2月18日から)。
LMT電池 容量が2kWhを超える産業用電池及びEV電池 | バッテリーパスポート |
その他の電池 | 第13条第1項~第5項までに規定する適用情報 第18条に規定する適合宣言書 第52条第3項に規定する報告書 第74条第1項(a)~(f)に規定する廃電池の防止及び管理に関する情報 |
SLI電池 | 廃棄物から回収され、電池の活物質に含まれるコバルト、鉛、リチウム、ニッケルの量 |
ラベリング、マーキング、情報要件(附属書VI)
パートA 電池の一般情報
- 製造者を特定する情報
- 電池カテゴリーと電池を特定する情報
- 製造場所
- 製造年月
- 重量
- 容量
- 化学的性質
- 電池に含まれる水銀、カドミウム、鉛以外の有害物質
- 使用可能な消火剤
- 重量比0.1%以上の濃度で電池に含まれる重要な原材料
パートB 電池の分別回収シンボル
パートC QRコード
背景色とのコントラストが高く、携帯型通信機器に内蔵されるような一般に利用可能なリーダーで容易に読み取れるサイズであること
廃ポータブル電池の回収(第59条)
- 2023年12月31日までに45%
- 2027年12月31日までに63%
- 2030年12月31日までに73%
廃LMT電池の回収(第60条)
- 2028年12月31日までに51%
- 2031年12月31日までに61%
リサイクル率の目標(附属書XII パートB)
- 鉛蓄電池:2025年12月31日までに50% → 2030年12月31日までに80%
- リチウム電池:2025年12月31日までに80% → 2030年12月31日までに70%
- ニッケルカドミウム電池:2025年12月31日までに80%
- その他廃電池:2025年12月31日までに50%
材料回収の目標(附属書XII パートC)
- コバルト:2027年12月31日までに90% → 2031年12月31日までに95%
- 銅:2027年12月31日までに90% → 2031年12月31日までに95%
- 鉛:2027年12月31日までに90% → 2031年12月31日までに95%
- リチウム:2027年12月31日までに50% → 2031年12月31日までに80%
- ニッケル:2027年12月31日までに90% → 2031年12月31日までに95%